2013年03月18日

[ 夏目漱石 ] <収録されている作品は『こころ』と『道草』> 夏目漱石全集(8) (販売ショップ:楽天ブックス)



■目次
こころ/道草


■青空文庫から『こころ』を一部抜粋


 私(わたくし)の知る限り先生と奥さんとは、仲の好(い)い夫婦の一対(いっつい)であった。家庭の一員として暮した事のない私のことだから、深い消息は無論解(わか)らなかったけれども、座敷で私と対坐(たいざ)している時、先生は何かのついでに、下女(げじょ)を呼ばないで、奥さんを呼ぶ事があった。(奥さんの名は静(しず)といった)。先生は「おい静」といつでも襖(ふすま)の方を振り向いた。その呼びかたが私には優(やさ)しく聞こえた。返事をして出て来る奥さんの様子も甚(はなは)だ素直であった。ときたまご馳走(ちそう)になって、奥さんが席へ現われる場合などには、この関係が一層明らかに二人の間(あいだ)に描(えが)き出されるようであった。
 先生は時々奥さんを伴(つ)れて、音楽会だの芝居だのに行った。それから夫婦づれで一週間以内の旅行をした事も、私の記憶によると、二、三度以上あった。私は箱根(はこね)から貰った絵端書(えはがき)をまだ持っている。日光(にっこう)へ行った時は紅葉(もみじ)の葉を一枚封じ込めた郵便も貰った。


■『こころ』などの著作権が切れている作品は青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)でも読むことができます。


タグ:夏目漱石
posted by 7876 at 18:27| 小説

2013年03月11日

<『春の夜』などの作品を収録> 芥川龍之介全集(6) [ 芥川龍之介 ](販売ショップ:楽天ブックス)



■目次
温泉だより/海のほとり/尼提/死後/湖南の扇/年末の一日/カルメン/三つのなぜ/春の夜/点鬼簿/悠々荘/彼/彼第二/玄鶴山房/蜃気楼/河童/誘惑/浅草公園/たね子の憂鬱/古千屋/冬/手紙/三つの窓/歯車/闇中問答/夢/或阿呆の一生


■青空文庫から『春の夜』を一部抜粋
 これは近頃Nさんと云う看護婦に聞いた話である。Nさんは中々利(き)かぬ気らしい。いつも乾いた唇(くちびる)のかげに鋭い犬歯(けんし)の見える人である。
 僕は当時僕の弟の転地先の宿屋の二階に大腸加答児(だいちょうかたる)を起して横になっていた。下痢(げり)は一週間たってもとまる気色(けしき)は無い。そこで元来は弟のためにそこに来ていたNさんに厄介(やっかい)をかけることになったのである。
 ある五月雨(さみだれ)のふり続いた午後、Nさんは雪平(ゆきひら)に粥(かゆ)を煮ながら、いかにも無造作(むぞうさ)にその話をした。

       ×          ×          ×

 ある年の春、Nさんはある看護婦会から牛込(うしごめ)の野田(のだ)と云う家(うち)へ行(ゆ)くことになった。野田と云う家には男主人はいない。切(き)り髪(がみ)にした女隠居(おんないんきょ)が一人、嫁入(よめい)り前(まえ)の娘が一人、そのまた娘の弟が一人、――あとは女中のいるばかりである。Nさんはこの家(うち)へ行った時、何か妙に気の滅入(めい)るのを感じた。それは一つには姉も弟も肺結核(はいけっかく)に罹(かか)っていたためであろう。けれどもまた一つには四畳半の離れの抱えこんだ、飛び石一つ打ってない庭に木賊(とくさ)ばかり茂っていたためである。実際その夥(おびただ)しい木賊はNさんの言葉に従えば、「胡麻竹(ごまだけ)を打った濡(ぬ)れ縁さえ突き上げるように」茂っていた。


■『春の夜』などの著作権が切れている作品は青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)でも読むことができます。



タグ:芥川龍之介
posted by 7876 at 15:11| 小説