2013年02月09日

<収録作品は『温泉だより』など>芥川龍之介全集(第12巻) [ 芥川龍之介 ](販売ショップ:楽天ブックス)




■目次
明日の道徳/「高麗の花」読後/偽者二題/装幀に就いての私の意見/プロレタリア文学論/「春の外套」の序/各種風骨帖の序/娼婦美と冒険/大導寺信輔の半生/早春/澄江堂雑記/俊寛/出来上った人/壮烈の犠牲/現代十作家の生活振り/一枚三十銭の稿料/馬の脚/学校友だち/正直に書くことの困難/田端人/文部省の仮名遣改定案について/日本小説の支那訳/望むこと二つ/越びと/THE MODERN SERIES OF ENGLISH LITERATURE序/春/念仁波念遠入札帖/澄江堂雑詠/芥川龍之介年譜/平田先生の翻訳/人及び芸術家としての薄田泣菫氏/伊東から/日本の女/雪/詩集/ピアノ/鏡花全集目録開口/鏡花全集の特色/鏡花全集に就いて/北京日記抄/雑信一束/澄江堂雑詠/温泉だより/わが俳諧修業/旅のおもひで/「わたくし」小説に就いて/結婚並びに恋愛難/「太虚集」読後/Gaity座の「サロメ」/好きな果物の話/ポーの片影/海のほとり/尼提/死後/藤沢清造君に答ふ/才一巧亦不二


■青空文庫から『温泉だより』を一部抜粋
 ……わたしはこの温泉宿(やど)にもう一月(ひとつき)ばかり滞在(たいざい)しています。が、肝腎(かんじん)の「風景」はまだ一枚も仕上(しあ)げません。まず湯にはいったり、講談本を読んだり、狭い町を散歩したり、――そんなことを繰り返して暮らしているのです。我ながらだらしのないのには呆(あき)れますが。(作者註。この間(あいだ)に桜の散っていること、鶺鴒(せきれい)の屋根へ来ること、射的(しやてき)に七円五十銭使ったこと、田舎芸者(いなかげいしゃ)のこと、安来節(やすきぶし)芝居に驚いたこと、蕨狩(わらびが)りに行ったこと、消防の演習を見たこと、蟇口(がまぐち)を落したことなどを記(しる)せる十数行(ぎょう)あり。)それから次手(ついで)に小説じみた事実談を一つ報告しましょう。もっともわたしは素人(しろうと)ですから、小説になるかどうかはわかりません。ただこの話を聞いた時にちょうど小説か何か読んだような心もちになったと言うだけのことです。どうかそのつもりで読んで下さい。
 何(なん)でも明治三十年代に萩野半之丞(はぎのはんのじょう)と言う大工(だいく)が一人、この町の山寄(やまよ)りに住んでいました。萩野半之丞と言う名前だけ聞けば、いかなる優男(やさおとこ)かと思うかも知れません。しかし身の丈(たけ)六尺五寸、体重三十七貫と言うのですから、太刀山(たちやま)にも負けない大男だったのです。いや、恐らくは太刀山も一籌(いっちゅう)を輸(ゆ)するくらいだったのでしょう。現に同じ宿(やど)の客の一人、――「な」の字さんと言う(これは国木田独歩(くにきだどっぽ)の使った国粋的(こくすいてき)省略法に従ったのです。)薬種問屋(やくしゅどいや)の若主人は子供心にも大砲(おおづつ)よりは大きいと思ったと言うことです。同時にまた顔は稲川(いながわ)にそっくりだと思ったと言うことです。


■『温泉だより』などの著作権が切れている作品は青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)でも読むことができます。





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posted by 7876 at 17:20| 小説