2013年08月25日

こころ 夏目漱石 (その内(うち)学校が〜) (販売ショップ:楽天ブックス)

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■青空文庫から『こころ』を一部抜粋
 その内(うち)学校がまた始まりました。私たちは時間の同じ日には連れ立って宅(うち)を出ます。都合がよければ帰る時にもやはりいっしょに帰りました。外部から見たKと私は、何にも前と違ったところがないように親しくなったのです。けれども腹の中では、各自(てんでん)に各自(てんでん)の事を勝手に考えていたに違いありません。ある日私は突然往来でKに肉薄しました。私が第一に聞いたのは、この間の自白が私だけに限られているか、または奥さんやお嬢さんにも通じているかの点にあったのです。私のこれから取るべき態度は、この問いに対する彼の答え次第で極(き)めなければならないと、私は思ったのです。すると彼は外(ほか)の人にはまだ誰(だれ)にも打ち明けていないと明言しました。私は事情が自分の推察通りだったので、内心嬉(うれ)しがりました。私はKの私より横着なのをよく知っていました。彼の度胸にも敵(かな)わないという自覚があったのです。けれども一方ではまた妙に彼を信じていました。学資の事で養家(ようか)を三年も欺(あざむ)いていた彼ですけれども、彼の信用は私に対して少しも損われていなかったのです。私はそれがためにかえって彼を信じ出したくらいです。だからいくら疑い深い私でも、明白な彼の答えを腹の中で否定する気は起りようがなかったのです。
 私はまた彼に向って、彼の恋をどう取り扱うつもりかと尋ねました。それが単なる自白に過ぎないのか、またはその自白についで、実際的の効果をも収める気なのかと問うたのです。しかるに彼はそこになると、何にも答えません。黙って下を向いて歩き出します。私は彼に隠(かく)し立てをしてくれるな、すべて思った通りを話してくれと頼みました。彼は何も私に隠す必要はないと判然(はっきり)断言しました。しかし私の知ろうとする点には、一言(いちごん)の返事も与えないのです。私も往来だからわざわざ立ち留まって底(そこ)まで突き留める訳にいきません。ついそれなりにしてしまいました。


■『こころ』などの著作権が切れている作品は青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)でも読むことができます。
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posted by 7876 at 01:58| 小説

2013年06月27日

こころ 夏目漱石 (ページ数:300p) (販売ショップ:楽天ブックス)

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■青空文庫から『こころ』を一部抜粋
三十五

 私(わたくし)は立て掛けた腰をまたおろして、話の区切りの付くまで二人の相手になっていた。
「君はどう思います」と先生が聞いた。
 先生が先へ死ぬか、奥さんが早く亡くなるか、固(もと)より私に判断のつくべき問題ではなかった。私はただ笑っていた。
「寿命は分りませんね。私にも」
「こればかりは本当に寿命ですからね。生れた時にちゃんと極(きま)った年数をもらって来るんだから仕方がないわ。先生のお父(とう)さんやお母さんなんか、ほとんど同(おんな)じよ、あなた、亡くなったのが」
「亡くなられた日がですか」
「まさか日まで同じじゃないけれども。でもまあ同じよ。だって続いて亡くなっちまったんですもの」
 この知識は私にとって新しいものであった。私は不思議に思った。
「どうしてそう一度に死なれたんですか」
 奥さんは私の問いに答えようとした。先生はそれを遮(さえぎ)った。
「そんな話はお止(よ)しよ。つまらないから」
 先生は手に持った団扇(うちわ)をわざとばたばたいわせた。そうしてまた奥さんを顧みた。
「静(しず)、おれが死んだらこの家(うち)をお前にやろう」
 奥さんは笑い出した。
「ついでに地面も下さいよ」
「地面は他(ひと)のものだから仕方がない。その代りおれの持ってるものは皆(みん)なお前にやるよ」
「どうも有難う。けれども横文字の本なんか貰(もら)っても仕様がないわね」
「古本屋に売るさ」
「売ればいくらぐらいになって」


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posted by 7876 at 19:09| 小説

2013年03月18日

[ 夏目漱石 ] <収録されている作品は『こころ』と『道草』> 夏目漱石全集(8) (販売ショップ:楽天ブックス)



■目次
こころ/道草


■青空文庫から『こころ』を一部抜粋


 私(わたくし)の知る限り先生と奥さんとは、仲の好(い)い夫婦の一対(いっつい)であった。家庭の一員として暮した事のない私のことだから、深い消息は無論解(わか)らなかったけれども、座敷で私と対坐(たいざ)している時、先生は何かのついでに、下女(げじょ)を呼ばないで、奥さんを呼ぶ事があった。(奥さんの名は静(しず)といった)。先生は「おい静」といつでも襖(ふすま)の方を振り向いた。その呼びかたが私には優(やさ)しく聞こえた。返事をして出て来る奥さんの様子も甚(はなは)だ素直であった。ときたまご馳走(ちそう)になって、奥さんが席へ現われる場合などには、この関係が一層明らかに二人の間(あいだ)に描(えが)き出されるようであった。
 先生は時々奥さんを伴(つ)れて、音楽会だの芝居だのに行った。それから夫婦づれで一週間以内の旅行をした事も、私の記憶によると、二、三度以上あった。私は箱根(はこね)から貰った絵端書(えはがき)をまだ持っている。日光(にっこう)へ行った時は紅葉(もみじ)の葉を一枚封じ込めた郵便も貰った。


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posted by 7876 at 18:27| 小説