2013年01月15日

<『大導寺信輔の半生』(新字旧仮名)などを収録>芥川龍之介全集(第12巻) [ 芥川龍之介 ](販売ショップ:楽天ブックス)



■目次
明日の道徳/「高麗の花」読後/偽者二題/装幀に就いての私の意見/プロレタリア文学論/「春の外套」の序/各種風骨帖の序/娼婦美と冒険/大導寺信輔の半生/早春/澄江堂雑記/俊寛/出来上った人/壮烈の犠牲/現代十作家の生活振り/一枚三十銭の稿料/馬の脚/学校友だち/正直に書くことの困難/田端人/文部省の仮名遣改定案について/日本小説の支那訳/望むこと二つ/越びと/THE MODERN SERIES OF ENGLISH LITERATURE序/春/念仁波念遠入札帖/澄江堂雑詠/芥川龍之介年譜/平田先生の翻訳/人及び芸術家としての薄田泣菫氏/伊東から/日本の女/雪/詩集/ピアノ/鏡花全集目録開口/鏡花全集の特色/鏡花全集に就いて/北京日記抄/雑信一束/澄江堂雑詠/温泉だより/わが俳諧修業/旅のおもひで/「わたくし」小説に就いて/結婚並びに恋愛難/「太虚集」読後/Gaity座の「サロメ」/好きな果物の話/ポーの片影/海のほとり/尼提/死後/藤沢清造君に答ふ/才一巧亦不二


■青空文庫から『大導寺信輔の半生』(新字旧仮名)を一部抜粋
       一 本所

 大導寺信輔の生まれたのは本所の回向院の近所だつた。彼の記憶に残つてゐるものに美しい町は一つもなかつた。美しい家も一つもなかつた。殊に彼の家のまはりは穴蔵大工だの駄菓子屋だの古道具屋だのばかりだつた。それ等の家々に面した道も泥濘の絶えたことは一度もなかつた。おまけに又その道の突き当たりはお竹倉の大溝(おほどぶ)だつた。南京藻の浮かんだ大溝はいつも悪臭を放つてゐた。彼は勿論かう言ふ町々に憂鬱を感ぜずにはゐられなかつた。しかし又、本所以外の町々は更に彼には不快だつた。しもた家の多い山の手を始め小綺麗な商店の軒を並べた、江戸伝来の下町も何か彼を圧迫した。彼は本郷や日本橋よりも寧ろ寂しい本所を――回向院を、駒止め橋を、横網を、割り下水を、榛の木馬場を、お竹倉の大溝を愛した。それは或は愛よりも憐みに近いものだつたかも知れない。が、憐みだつたにもせよ、三十年後の今日さへ時々彼の夢に入るものは未だにそれ等の場所ばかりである…………


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posted by 7876 at 00:27| 小説